消化器外科
どんな病気を扱っているの?(大腸、肛門)
診療内容
下部消化管グループでは主として大腸・肛門および小腸の病気の診断と治療を行っています。下部消化管に関わる外科的疾患を扱っており、主には大腸がんを中心に大腸悪性腫瘍、大腸ポリープなどの良性腫瘍、小腸がんや小腸悪性リンパ腫や小腸GIST(消化管間葉系腫瘍)などの小腸悪性腫瘍などが主な診療対象です。虫垂炎や鼠径ヘルニアや腸閉塞や痔核・脱肛なども診療いたします。
外科手術のほかに大腸がんの化学療法、緩和医療、大腸内視鏡検査などの検査も行っています。
特徴・特色
下部消化管グループでは主として大腸・肛門および小腸の外科的疾患の診断と治療を行っています。当グループでは消化器外科学会専門医、指導医、大腸肛門病学会専門医が、火曜日および金曜日に外来診療を行っております。
また当院の特徴として救急診療にも力を入れており、大腸がんに限らず下部消化管関連の救急疾患にも当院救命診療科と連携しながら対応しております。他院では診療困難な高齢者や重篤な基礎疾患のある患者さんに対してもそれぞれの専門科と連携し診療にあたっています。
随時、セカンドオピニオンも受け付けております。
領域 |
疾患名等 |
---|---|
腫瘍性疾患 | 大腸がん、肛門がん、痔瘻がん、小腸がん、大腸ポリープ、大腸ポリポーシスなど |
肛門疾患 | 痔核・脱肛、直腸脱、痔瘻・肛門周囲膿瘍、裂肛、肛門ポリープなど |
急性腹症 | 急性虫垂炎、穿孔性腹膜炎、腸閉塞、大腸憩室炎など |
大腸がんの進行度は、深達度とリンパ節転移、遠隔転移を総合してステージ0~IVに分類されます。
大腸癌の治療は病期に応じて異なります。基本はガイドラインに応じた治療方針をたてますが、実際のところは、個々の症例に応じた治療を我々と患者さまで相談したうえで決定します。
StageIVであっても根治を目指すこともありますので、決して治療を投げ出してあきらめることはありません。
一方、きつい治療を望まないという価値観をお持ちの患者さまに治療を強要せずご相談に乗ることもあります。
手術・治療について
1.患者さん一人一人の状態に合わせて治療方針を決定します
大腸癌研究会から出版されている2022年度版 大腸がん診療ガイドラインおよび世界的に広く使用されているがん診療ガイドラインに沿って治療、経過観察をおこなっております。一方、ガイドラインに沿った治療方法が様々な理由により適切ではない場合もあります。そこで、生活の質をできるだけ保つことができるよう、術後の機能を可能な限り残すことができるよう体にやさしい治療方法を選択し、病気の進み具合や体の状態を考慮しながら一人一人の状態に見合った治療方針を立てています。
ガイドラインを踏まえた治療方針および当科で治療を受けていただくにあたって特に重要だと考えられることを外来初診時より説明し、患者さんに治療について十分理解していただけるように初診時より患者サポートセンターを含めたチームで対応するように努めています。
入院中の経過・治療は、術後早期回復プログラムであるERAS (enhanced recovery after surgery)の要素を盛り込んだ内容としており、日々の治療内容や看護内容を日ごとに記載したクリニカルパスを作成し、そのパスに沿って患者さんに説明を行いわかりやすい医療の提供を心がけています。
2.体にかかる負担を少なくし生活の質をできるだけ保つ治療
<腹腔鏡下手術>
9割以上の症例で腹腔鏡下手術をおこなっております。しかしながら、腹腔鏡下手術には開腹手術と比較して長所、短所があります。そこで腹腔鏡の長所および短所を十分考慮して、根治性と安全性を重視しつつ腹腔鏡下手術を行っております。
(腹腔鏡下手術の長所)
・創が小さい。
・侵襲が小さい。
・出血が少ない。
⇒合併症が少なく、痛みが軽度で社会復帰が早い。
(腹腔鏡下手術の短所)
・触覚がない。
・立体感がない。
・使用できる道具に制限がある。
⇒手術が難しい。
⇒技術認定医制度があり、治療には技術認定医が携わります。
開腹手術も腹腔鏡下手術も術後の予定(いつから食事開始で、いつごろ退院かなど)は同じですが、痛みと整容性が異なるのはいうまでもありません。
我々は腹腔鏡手術の長所を最大限に活かせるように腹腔鏡手術にこだわっております。
3.肛門温存を目指した直腸がん手術
従来、肛門に近い直腸がんは人工肛門になることがあたりまえでした。
直腸がんと診断された患者さんがもっとも気にされることは人工肛門になるかどうかです。
上記の術式は、1908年にマイルスDrが初めておこなった手術で
肛門に近い直腸がんに対して肛門ごと直腸を摘出し、肛門は縫い閉じてS状結腸で人工肛門を作る術式です。
もちろん今でも行われている手術ですが、腹腔鏡下手術などの手技がでてくるようになり肛門温存率も上がりました。
我々は様々な方法を使って肛門温存できる方法を模索しています。
上記術式は肛門にかなり近いがんであっても比較的早期であれば内肛門括約筋を切除することで肛門を温存する術式で1994年にシーセルDrが初めておこなった手術です。肛門機能はかなり悪くはなりますが、人工肛門は回避できる画期的な手術です。
<経肛門的直腸間膜全切除術(TaTME:Transanal Total Mesorectal Excision)>
肛門に近い腫瘍においては、腹腔鏡下手術で骨盤の奥にアプローチすることが難しいことがしばしばあります。この術式は肛門側から直腸を切除していく方法で、直腸がんから適切なマージン(距離)をとることが可能です。骨盤が狭い男性や肥満の患者さんでも肛門温存が可能になる術式です。
左上)直腸がんの肛門がわで直腸粘膜を縫い閉じてがん細胞が手前にこないようにし、適切な距離をとって直腸を電気メスにて全層で切っていきます。
右上)全層切離を直腸全周でおこなって、腹腔側へとすすんでいきます。
左下)肛門側からは十分直腸が剥離されているため腹腔鏡下で腹腔内からは骨盤の腹膜を切開するだけで
右下)がんを含む直腸が切離できます。
<ロボット支援下直腸手術>
2024.1月から当院でも直腸癌手術に対するロボット支援下手術を開始いたしました。管子が曲がり、精緻な動きが得意なロボット手術は、とくに肛門に近い腫瘍に対しては威力を発揮し、肛門機能温存に有効な手技であると考えております。また、腸管血流の評価も全例で施行しており、縫合不全などの合併症の減少に寄与します。
ロボット支援下手術は、現在すべての大腸癌に対して保険適応となっておりますが、我々は直腸癌手術に対するロボット手術のメリットが非常に大きいと考えており、現時点では直腸癌手術を中心におこなっております。
左上)直腸の切離 (TME) 右上)ICGを用いた腸管血流の評価 左下)直腸とS状結腸の吻合 |
4.高度進行がんに対する集学的治療
集学的治療とはいくつもの治療を併用しておこなうことで、がんの根治性をあげることができる。
これは集学的治療の一例であるが、術前治療として放射線化学療法や化学療法をおこない、腫瘍を小さくしてから切除することで再発率を下げたり、肛門温存が可能になったりする。
5.再発の仕方に応じた化学療法
StageIV大腸がん、再発大腸がんの治療は一様ではない。
患者さんの社会的背景、体力的なもの、意思などで治療は大きく変わる。
我々は常に根治を念頭において治療をおこなっているが、それだけですべての患者さんを幸せにはできないこともわかっています。
それぞれの患者さんのニーズにあった治療を提供できるようにと考えています。
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